高畑勲:若者世代の心の健康を心配しているアニメーション映画監督
高勲は、若者世代の心の問題に関心を持ち続けた。初演出「太陽の王子ホルスの大冒険」では主人公ホルスが「迷いの森」に迷い込むといった形で青年の心の問題が描かれていた。「アルプスの少女ハイジ」では、住み慣れたアルプスの山から強制的に連れさられたハイジはホームシックとなり、抑うつ的となり、そして夢遊病を発症した。「セロ弾きのゴーシュ」のゴ- シュは内気で、劣等感が強く、脆い自尊心を持ち、対入場面を恐れる傾向があった。「火垂るの墓」では、主人公が快不快の原理に基づいて行動するとみなし、その行き着く先を描き出した。こうした快不快の原理を打破するための方略は、「おもひでぼろぼろ」の主人公タエ子がおこなった、田舎の太陽の下、身体を動かすことであった。「平成狸合戦ぽんぽこ」では、「おもひでぼろぼろ」で十分に描かれなかった集団への帰属が細やかに描かれる。高畑は、集団帰属の種々のパターンを描くことで、個人が集団へ適応する思考実験を試みた。さらに高畑は、昨今の癒しブームへの懐疑をもち、癒しよりは慰めを必要としていると考え、「ホーホケキョとなりの山田くん」を製作した。この作品では、家族成員はそれぞれ欠点を持つが、他の家族成員が補って、家族が上手く機能している。こうした家族が、高畑の結論とする心の問題への対処法なのであろう。