『火垂るの墓』における地域表象
本稿は、高畑勲のアニメーション作品『火垂るの墓』について、具体的な地域表象を検討するとともに、関係地を訪問する行動について、その意味づけを考察するものである。『火垂るの墓』は、強く情動を喚起する作品である。一例として、主人公兄妹の母親の死の舞台となる学校のシークエンスをとりあげる。画面内の事物の配置を現実の地理空間に置くと、あるべき鉄道の高架が画面に現れていない。この不在は、兄妹の孤立感を強調している。また、本作品の関係地訪問の事例を検討すると、アニメ聖地巡礼としてではなく、戦跡など事実に基づく土地への観光であるダークツーリズムに類するといえる。虚構作品の関係地は現実と必ずしも対応するものではなく、また作品が喚起する情動の側面も無視できない。これらについては、さらなる考察が必要である。