宮崎駿のアニメーションにおける生き物の心理学的意昧
宮崎駿のアニメーションにあらわれる生き物には彼の精神状態が反映されている。彼はアニメーターとして20年働いた後、中年期危機に陥った。「風の谷のナウシカ」の王蟲と「ラピュタ」のロボットが示す強大な破壊力は中年期危機における宮崎の攻撃性が昇華されたものとみなされる。この2作品で中年期危機をのりこえた宮崎は出発点に戻り「となりのトトロ」で日本を描こうとした。同時にスタジオジブリで自由に彼の創造性を発揮できる条件がととのい、自然の力を自由に操るトトロのごとく全能感をもった。しかしその一方で、有能なスタッフから厳しい批判をあびた彼は、スタッフとの問の一体感を失ったと感じた。この一体感の喪失は、「魔女の宅急便」においてキキと黒猫のジジの問でコミュニケーションが失われることに認められる。両者のコミュニケーシヨンはキキのスランプの脱出(自立性の確立)とジジが父親になったことによって回復する。いわゆる宮崎のスタッフに対する父親的役割の獲得を意味する。ついで「紅の豚」では、豚を、趣味的生活を楽しむ自分自身として表現した。「紅の豚」とコミック「風の谷のナウシカ」で死と再生のエピソードを描いた後の英知が「もののけ姫」に引き継がれた。「もののけ姫」では自然(宮崎)の英知とともに観客(若者世代)を勇気づけるメッセージが送られた。