ディズニー最後のオムニバス映画:『イカボードとトード氏』(1949年)の制作とマーケティング
1940年代という騒然とした10年間に制作されたディズニーのオムニバス映画の最後として、『イカボードとトード氏』(1949年)は有名な文学的財産に基づいた二つの別個の物語のぎこちない「政略結婚」という評価を得た。二つとはすなわちアメリカのものとイギリスのものであり、ワシントン・アーヴィングの『スリーピーホロウの伝説』とケネス・グラハムの『たのしい川べ』である。本論文は8年間におよぶ映画の構想期間を再構築することによって、この二つの間のあからさまな相違がいかに必然的であったかだけでなく、いかに意図的でもあったかを論証する。これはとくに物語の扱い トードのために周到に用意された見せ場とイカボードの本格的なミュージカル だけでなく、トードにはリアリズム、イカボードには様式化を優先する美術演出に顕著である。マーケティング戦略を分析すると、この映画がA作品とB作品からなる当時の標準的な二本立て映画の複製として提示されたことがわかる。イギリスとアメリカの映画批評家のなかには、喜怒哀楽すべての感情反応を刺激し共感するディズニーのキャラクターと物語の新たな一石であると称賛した者もいるが、そのとき彼らは『イカボードとトード氏』を『白雪姫』や『ダンボ』、シリーシンフォニーシリーズと好意的に比較し、この映画をディズニーの復興 1950年の『シンデレラ』の初上映によって完全に実現されることになる復活劇の前触れとみなしていた。