ウィリアム・ケントリッジ
ウィリアム・ケントリッジ(1955年生まれ)の白黒アニメ映画により今日の南アフリカに関する象徴的かつ前例のない洞察が得られ、それは真実和解委員会の審理からヨハネスブルグ周辺地域におけるアパルトヘイトの暴力の痕跡に及ぶ。本書は、生まれ故郷の南アフリカを離れて20数年間無名のまま過ごしたのち、1997年に国際的な芸術シーンに爆発的な勢いで登場したこのたぐいまれな芸術家の仕事を記録した初めての本である。ケントリッジの映画は、個々の人たちの苦悩を通して政治情勢を描いている。それらは多数の描画で根気よく構成されており、線や形を足すだけではなく消すことで作られていることが多い。1週間を費やして仕上げた描画がアニメーションの中ではたったの40秒にしかならないこともある。アパルトヘイトやホロコーストのような社会政治的トラウマは、彼の哀愁や苦しみに満ちた映像を通して謎めいた言い方で物語られている。秀でた製作者の技術に依存するMax Backman(マックス・ベックマン)やKathe Kollwitz(ケーテ・コルヴィッツ)のような一部の表現派の芸術家のように、ケントリッジはヒトの描写を通して政治に関与する芸術を表している。このかけがえのない本は彼の仕事について広範囲に及ぶ初めてのモノグラフである。米国のキュレーターであり評論家であるDan Cameron(ダン・キャメロン)は政治色の強い芸術という側面からケントリッジの仕事を調査する一方、彼のアニメーション技術の組織的な革新を分析する。欧州の芸術評論家でありキュレーターであるCarolyn Christov-Bakargiev(キャロライン・クリストフ=バカルギエフ)は彼の描画との関係における政治的および哲学的側面について芸術家と考察する。ブッカー賞を受賞した南アフリカの小説家J. M. Coetzee(ジョン・マックスウェル・クッツェー)は、ケントリッジのもっとも有名なキャラクターであるSoho Eckstein(ソーホー・エクスタイン)とFelix Teitlebaum(フェリックス・タイテルバウム)の開発の重要なポイントとして、アニメ作品「History of the Main Complaint(邦題:重大な傷/病の歴史について)」(1996年)に焦点を当てている。「The Artist's Choice」選集はItalo Svevo(イタロ・ズヴェーヴォ)による「Confessions of Zeno(邦題:ゼーノの苦悶)(1923年)」からの抜粋であり、芸術家の仕事について自伝体で描かれている。ケントリッジの著作物は描写プロセスについての熟考、南アフリカの政治の現状、Goya(ゴヤ)やHogarth(ホガース)からベックマンやエイゼンシュテインなど彼が描いてきた描写の伝統に及ぶ。
「Nielsen BookData」より