視点が担うメッセージ――『ひぐらしのなく頃に』に見るノベルゲームの物語構成法
本稿では、連続殺人事件を題材としたノベル・ゲーム『ひぐらしのなく頃に』を、その物語内容と構造に着目しつつ分析する。ここでの議論は、ノベル・ゲームが特徴あるメディア形式として機能する過程を明らかにするものである。ノベル・ゲームは、「マルチ・エンディング」のアドヴェンチャー・ゲームの原則に基づく。プレイヤーは主人公に同一化し、「最良のエンディング」をめざしてアクションを選択してゆく。そうしたアドベンチャー・ゲームの構造はユニークな単数一人称を生み出し、こうした特徴は『ひぐらしのなく頃に』でも模倣されている。しかし、このゲームにおいては、主人公の視点からだけでは殺人事件を解決するのは不可能である。各人物の視点を重ね合うことが要求される。ノベル・ゲームにおける単数一人称は解消されねばならない。しかし、こうした解消は、プレイヤーが「ゲーム」としてのストーリーに参加することが要求される。つまり、策日は、そのゲームとしての特性を廃棄すると同時に創造するのである。こうした『ひぐらしのなく頃に』の特徴は、ストーリーテリングのメディアとしての「ゲーム」のオリジナリティーがゲームそのものの構造の一部であることを示している。