世界の痕跡——セル・アニメーションと写真
カートゥーン・アニメは映画をめぐる写真理論から除外されるのが通例であった。アニメーション用のカメラはカートゥーン制作では付随的な役割しか与えられていないというのが、その理由とされてきた。本稿は、こうした想定に対して異議を呈するものである。セル画式アニメーションであればすべての作品がもとは写真的なものだという事実を基本的前提とする本稿では、私たちの世界——とりわけ、アニメーション・スタジオの世界——の物理的現実が、いかにしてカートゥーンのイメージに痕跡を残しているかが示される。筆者はここでワーナー・ブラザーズをはじめとする、20世紀半ばのアメリカのメジャー・スタジオが製作したカートゥーンをひとコマごとに分析することを通じて、画面上における不完全さの様々な実例を列挙し、セル・アニメーションが写真に起源を持つことを証明する。間違って入れられたセル画や、カメラの反射、ほこりやごみなどがそうした実例であるが、誰だか分からない作業者の指紋もそこに含まれる。こうした失策の数々は、見ている時はほんの一瞬現れるだけであっても、まるで写真のように後代に残される。カートゥーン・アニメは、自身の制作を写真的に記録したものなのである。本稿が採用する方法のモデルを挙げるなら、それはアーティスト、アンドリュー・ノーマン・ウィルソンの作品『ScanOps』(2012)である。この作品は、グーグル・ブックスから取ってきた一連の写真で構成されている。このような分析方法は、労働過程に関する政治と美学の双方を探求するにあたって役立つことだろう。