Pointer, Ray. The Art and Inventions of Max Fleischer: American Animation Pioneer, McFarland, 2017.
こちらもフライシャー兄弟の映像制作について、実に豊富な資料を元に記述したモノグラフ。近年、フライシャー研究は盛況を見せており、Gordon M Dobbsが、関係者へのインタビューを元に書籍化した二冊の本をそれぞれ2022年と2024年に出版している(Made of Pen & Ink: Fleischer Studios)。
Crafton, Donald. Before Mickey: The Animated Film 1898-1928, The University of Chicago Press, 1993.
1982年にMIT Pressから出版されたものの再版。アメリカの初期アニメーションに関する基本文献。フライシャー兄弟のサイレント期のアニメーションとその制作についても詳しい。
Langer, Mark. "The Disney-Fleischer Dilemma: Product Differentiation and Technological Innovation", Screen, 33(4), 1992, 343-360.
Langerはフライシャー兄弟に関する学術研究の先駆者。本論文は、ディズニー、フライシャー、両社が開発したアニメーション撮影装置を、産業的な競合の背景とゲーム理論から検討している。Screen Histories: A Screen Reader (eds., A. Kuhn and J. Stacey, Oxford University Press, 1998)にも載録あり。Langerの著作としては、本論文以外に次も挙げたい。"Institutional Power and the Fleischer Studios: The Standard Production Reference," Cinema Journal 30, no. 2 (Winter 1992): 3-22.
細馬宏通『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』(新潮社、2013)
アメリカの大衆的なアニメーションについて、時代・文化・技術といった背景から記述しており、フライシャーについても二章が費やされている。アメリカの大衆文化や時代的な潮流の中からよりよくアニメーションを理解する助けとなる。日本語で読めるフライシャー研究としても貴重。
Telotte, J. P. Animating Space: From Mickey to Wall-E, The University Press of Kentucky, 2010.
アメリカの商業アニメーションを、空間の観点から論じた書籍。フライシャー兄弟の空間について一章が割かれている。3次元的なアニメーションの空間表象を目指しフライシャー・スタジオが開発したとされる装置、「ステレオプティカル」について考える上で重要。
Bouldin, Joanna. "Cadaver of the Real: Animation, Rotoscoping and the Politics of the Body", Animation Journal, 12, 2004, 7-31.
実写映像を一コマずつトレースしてアニメーションを制作するロトスコープはフライシャー兄弟による発明である。この技術が用いられたベティ・ブープのアニメーションについて検討し、同時代において人種化された身体が「真正性」と結びつけられてきたことを確認しながら、人種化され、エロス化された女性身体をロトスコープ映像との関係から分析している。
Frierson, Michel. "Clay Animation Comes Out of the Inkwell: The Fleischer Animation and Clay Animation", A Reader in Animation Studies, Jhon Libbey, 1997.
フライシャー兄弟の最初の代表的なシリーズ・アニメーションである「インク壺」シリーズの一作、Modeling (1921)において、いかにクレイ・アニメーションが実写の空間と手描きアニメーションの空間の媒介として機能しているかを分析している。早い時期に書かれた学術的なフライシャー・アニメーション論であるだけでなく、実写と手描きの架橋に注目している点でも重要。
Lehman, Christopher. The Colored Cartoons: Black Representation in American Animated Short Films, 1907-1954, University of Massachusetts Press, 2007.
アメリカの商業アニメーションにおいて、黒人表象の多くがステレオタイプ的になされてきたかを概観した書籍。ロトスコープを用いて黒人ミュージシャンをフィーチャーしたフライシャー作品について考える際に有用である。
小倉健太郎「アニメ・マシーンとしてのフライシャーの回転式撮影台」(『映像学』105、2021、5-26)
フライシャー・スタジオが開発したステレオプティカルについて、アニメーション産業に先行するムーヴィングパノラマやリバー・ケイヴスのようなアトラクションとの関係から論じた文献。ステレオプティカル映像の詳細な分析の重要性もさることながら、より広いメディア的な文脈にこの装置を位置づける歴史的な仕事であり、フライシャー・アニメーション研究から派生する研究の射程の広さを示している。
フライシャー兄弟とその映像制作についてのまとまった伝記として、おそらく最初に出版されたもの。証言、資料共に充実している。フライシャー研究の基本文献の一つ。