ノルシュテイン、ユーリ『Снег на траве(草上の雪)』(Красная площадь、2008)
世界的アニメーション作家による理論・自作解説(全2巻)。アニメーションを「約束事」の芸術とみなすことにより、アニメーションを映画ではなくむしろ文学や演劇に近いものと位置づける独自の理論を展開。英訳や邦訳が待たれる。
ロトマン、ユーリー「アニメーション映画の言語について」(『映画の記号学』、平凡社、1987、215-222)
記号学の大家がアニメーションに真っ向から取り組んだ論文。アニメーションは「記号の記号」であるとする観点は、エイゼンシュテインやノルシュテインの議論に加え、パロディとアニメーションの関係性を考えるうえでも重要。
Leslie, Ester. Hollywood Flatlands: Animation, Critical Theory, and the Avant-Garde, Verso, 2002.
20世紀初頭に活躍した芸術家や批評家がアニメーションをどう捉えたか。ディズニーの登場によりアニメーションが「夢」から「現実」化していく過程を追う。『表象』07号に1章のみ邦訳を掲載。
キッソン、クレア『「話の話」の話 アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』(未知谷、2008)
イギリスの優れたプロデューサーによるノルシュテインのバイオグラフィー。このリストの観点からは、マーケットベースではない社会主義圏におけるアニメーションの特異性を生み出す環境についての分析を学んでおきたい。
高畑勲『話の話』(アニメージュ文庫、徳間書店、1984)
著者が提起する「詩としてのアニメーション」という考え方は、短編全般を考える上で重要。「アニメージュ」という雑誌の存在自体がアニメに作家主義を導入した役割の大きさも改めて考えておきたい。
Honess Roe, Annabelle. Animated Documentary, Palgrave Macmillan, 2013.
アニメーション・ドキュメンタリーを考えるうえでの基礎的文献。映画や実写ベースのドキュメンタリーが優位とする光学的な記録性を超えた映像の可能性(共感性のメディア)を知ることさえできる、と言っておきたい。
ワード、ポール 「ロトショップの文脈」(『表象7』、月曜社、2023、79-101)
実写とアニメーションの区別を曖昧にするロトスコープという制作手法の歴史的な変遷に注目することで、アニメーション映像のリアリティについても考察した論文。いつしか「現実」という概念自体が揺れ始める。
Oreilly, David. Basic Animation Aesthetics, 2012.
気鋭のCGアニメーション作家が、デジタル表現の観点から伝統的なアニメーション観を破壊しようと試みた論考。アニメーションの本質とは有機性(生命の創造)ではなく一貫性の創造であるという観点は、デジタル以後を考えるうえで必須。
土居伸彰『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』(フィルムアート社、2016)
タイトルこそ作家論・作品論だが、これまで紹介した文献などをベースに「アニメーション」概念自体の変化を歴史的に追いつつ、そこに潜在している(いまだ実現・意識されていない)可能性について指摘する本でもある。
古今東西あらゆる芸術形式に共通する方法論を研究した博学の映画監督によるアニメーション論ゆえの説得力。本論で提起された「原形質性」は、アニメーションの本質と言われがちのメタモルフォーゼの関係を考えるための示唆に富む。