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押井守『攻殻機動隊』における声と視覚――デカルト的光学を超えて

この論文で考察するのは、押井守が『攻殻機動隊』(1995)において行った声と視覚の実験である。『攻殻機動隊』において身体を欠いた声が明確化する視聴覚的反転は、イメージと声の伝統的な一致を分解させる。押井が用いる非有機的な視線は、見ている人間の身体から脱却し空間へと拡張させる。それは、映画における人間中心的な視線という基準とはかけ離れている。この脱人格化された視覚は主体の散種を表現する。さらには、人類を存在論的に環境へと開いていくこの映画のモチーフとも反響しあう。押井の視聴覚的実験は、デカルト的光学への批判とみなすことができる。身体を欠いた声は他の感覚に対する視覚に優越するというデカルト的な見方の土台を崩し、非有機的な視線は非遠近法的な空間と非人間的な視覚を生み出しルネッサンス的な遠近法のシステムへの補足ともなる。結果的に、視覚を声から切り離す押井の傾向は、彼の作品において、アニメートされた身体を、主体‐客体の境界の古典的な構築を超えて複数の時空間的次元のいたるとこに配分される異質で離散的な担い手とするのだ。押井によるデカルト的光学への挑戦の結果は、アニメーションにおいて、エイゼンシュテインが言うところの「エクスタシー」のような強烈な情動性を生み出すことになる。

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